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12/04/11
「米韓FTAとその反対運動を学ぶ調査団報告書」を掲載
〜調査団団長:加藤善正岩手県生協連会長理事・著〜
 

 岩手県のJA中央会や県漁連、県森林組合連、県生協連など51団体でつくる「TPP等と食料・農林水産業・地域経済を考える岩手県民会議」のメンバー22人による「米国と韓国のFTA調査」は、3月18日〜21日の日程で、「米韓FTA(米韓自由貿易協定)」の実態の調査、FTAに反対の韓国の生協・農協・市民団体・有識者などからの情報収集を行い帰国しました。このたび同調査団長の加藤善正県生協連会長理事がまとめました「米韓FTAとその反対運動を学ぶ調査団報告書」を掲しましたので、ご一読ください。

お断り:全文は11ページにわたるため、サマリーを以下に掲載しました。全文については、下記のリンクからダウンロードしてご覧ください。

 加藤義正団長の報告書の全文はこちら(PDF 548 KB)

<「韓米FTAとその反対運動を学ぶ調査団の報告書(サマリー)」 作成者:加藤善正団長>

1.訪韓調査団の目的

(1) TPPに関する情報が開示されていない今日(今後も4年間は交渉の内容を開示しないというNZ高官の発言もある)、混乱の中で批准されて3月15日発効された韓米FTAの「内容と影響」を調査しこれらを県民・国民に報告して、TPPの危険な本質を理解し反対する世論を広げるため。

(2) 2006年6月(盧武鉉・ノムヒョン前大統領の時代)から開始され、2007年4月に調印された後、2011年10月米議会、11月韓国議会での批准までの間、韓国国民の「韓米FTA反対運動」と発効後のこれからの運動(協定破棄・見直しなど)に関する情報を収集して、当面の日本のTPP反対運動のあり方、喫緊の運動課題を探る。

(3) 代表団相互の信頼関係を強めて県内各地での「学習会やネットワークづくり」の推進を目指すため。

2.代表団と調査活動の概略

(1) 調査団構成:農協関係者13名、生協・労連・市民団体など7名、丸山茂樹コーディネーター・日本農業新聞記者の22名。団長:加藤善正(県生協連会長)、副団長:高橋専太郎(JA岩手県中央会副会長)、事務局長:畠山房郎(JA岩手県中央会参事)で構成。調査団は、事前に9種類の資料による事前学習を各自行い、韓米FTAに関する基本的な知識を持ち、3泊4日(3月18日〜21日)の短時間であったが精力的な調査活動を行なった。

(2)3月19日は、韓国農漁村社会研究所・副理事長の權寧勤(クォン・ヨングン)による2時間のレクチャーと質疑。ICOOP生協連店舗見学・消費者活動連合会聞き取り。参与民主社会市民連合訪問。夕食時、「韓米FTA阻止汎国民運動本部」(韓米FTAに反対する約300の団体が参加)の朱帝俊(トウ・テジュン)政策部長と懇談。3月20日:ショッピングセンター・農協精米工場・育苗農家視察・農協からの聞き取り・民主社会のための弁護士会の宋基昊(ソン・キホ)弁護士から、韓米FTAの条約・協定本(B5版4cmの厚さ)を前に法律的な諸問題、とりわけ、憲法や国内法・条例などの上位に位置するFTAが、韓国の主権を侵害する危険性を聞き取った。3月21日:韓国農協中央会を訪問し、趙始衡(チョ・シヒュング)海外協力担当から韓国農協中央会が何故、韓米FTAに反対しなかったなど聞き取る。午後帰国へ。代表団は、短い時間でありながら精力的な調査活動に満足しながら解散した。

3.韓米FTAとはいかなるものであるか、主な内容

(1) 韓国農業は1997年の通貨危機とIMF(国際通貨基金)による金融をはじめとする自由化・構造改革などの強要、相次ぐFTAの締結(チリ・EU、シンガポールなど10カ国以上)などにより、2008年の食料自給率は48.7%に落ち込み穀物自給率も28.4%になり、規模拡大政策の反面、地方の小規模農家の経営は逼迫し、高齢化・離農も進み一部農民の韓米FTAに対する危機意識は高い。米国とのFTAは例外扱いされたコメ(再協議の余地は残す)以外はほぼ全面的に開放された。関税撤廃品目は即時=38%、5年後まで=60%、10年後まで=87%、15年後まで=95%と丸裸になる。今回会談した多くの方の「我が国政府は農業を放棄した」「農業は産業・ビジネスの概念から社会保障(福祉)の対象となった」(農協中央会)という言葉が印象的である。また、WTO農業協定で認められた「特別緊急輸入制限措置(セーフガード=SSG=外国農産物の輸入急増から国内農業を保護する措置)の無力化が進んだ。韓米FTAでは「農業緊急輸入制限措置=ASG」を設けたが、対象品目も少なく運用も難しい。(中略)

(2)医療・医薬品分野では、1)米国メーカー製医薬品の許認可の遅延による損害は韓国が補償する。2)ジェネリック医薬品の認可はこれまでの安全性・有用性だけでなく、米国のパテントを侵害するか否かを判断の基準にする。3)株式会社の経営する健保適用外医療機関の開業を特区で認める。4)韓国政府が公的健康保険制度を強化する場合、米国保険会社は保険市場の縮小を理由に損害賠償請求の提訴が可能。米国の多国籍企業(民間保険会社や医薬品メーカー)が異議を申し立てて、いわゆるISD条項での韓国政府に対する損害賠償が発生する恐れがある。(中略)

(3) 韓国では学校給食に「地産地消」を実践する自治体が多く、今後、地場産品・国内農産物を優先して使う条例を決める場合(ソウルの新市長はこれを条例化しようとしている)、非関税障壁となりFTA協定に違反する。この点をこれからの「廃棄・見直し運動」の解りやすい対決点とする意見もあった。(中略)

(4) 遺伝子組み換え食品の表示は、米国の基準では安全とされるものに「安全でない」との誤解を与えるので、これも非関税障壁として輸出妨害に当たり認めない。各種「検疫措置」に対する規制緩和も進み、食の安全に対する不安も広がっている。

(5)自動車の排ガス規制や安全規制は米国の緩い基準に合致させる。今後、大気汚染や環境悪化などが惹起しても、「ラチェット条項」(後述)により、国民の健康や環境に対する新しい政策や法制化は出来なくなる。

(6)農協や韓国郵政の共済や保険は新たな商品を開発・販売しない。米国や金融大資本は共済という「相互扶助」や協同組合・助け合いなど、「金融・営利企業」の利益最大化に批判的・障害になる「存在」を否定し、利潤追求の保険会社や株式会社と「イコールフッティング」を強制する。韓国農協中央会はこうした事態への対応として、「金融」と「経済事業」という二つの「持ち株会社」への組織再編を急いでいた。

(7) 「流通法」により中小零細商店への影響が大きく伝統的小売市場の500メートル以内の大型店出店や、「互生法」により人口30万人未満の都市への出店などを首長が立地規制できていたが、これらもFTA協定違反の非関税障壁として撤廃される。

4.韓国を植民地化し憲法など国内法、制度、伝統よりFTAを優先する「毒素条項」

(1)サービス市場開放はネガティブリスト方式にする。ポジティブリスト方式は禁止できる品目だけを明示するのに反して、ネガティブリスト方式は例外的に禁止する品目だけを明示するので、禁止しない品目がどこまで広がるかは解らない。韓国ではこれへの不安が大きい。

(2) ラチェット条項はラチェット(一方にしか動かない爪歯車=不可逆)という言葉のように、一度開放したサービス分野は再び原状回復が出来ないというもの。

(3) 未来最恵国待遇の条項は、今後、韓国が他の国とFTAを締結した場合、その条件が韓米FTAより有利な場合は、米国にも同じ条件を適用する。

(4) スナップ・バック条項は、自動車分野で韓国が協定に違反した場合、又は米国製自動車の販売・流通に深刻な影響を及ぼすと米企業が判断した場合は、米国との自動車輸出入関税2.5%撤廃を無効にする。

(5) ISD(Investor−State Dispute Settlement)条項は、韓国に投資した企業が、韓国の政策によって損害を被った場合、世界銀行傘下の国際投資紛争仲裁センターへ提訴できる。韓国で裁判は行なわず、韓国にだけ適用される。

(6) 非違反申立条項(Non−Violation Complaint)は、米国企業が期待した利益が得られなかった場合、韓国がFTAに違反して無くても、米国政府が米国企業の代わりに、国際機関に対して韓国を提訴できる。(中略)

(7) 米企業・米国人に対しては、韓国の法律よりも韓米FTAを優先適用する条項は、例えば、牛肉の場合韓国では食用にできない部位を、米国法では加工用食肉として認めている。FTAが優先されると、そういった部位も輸入しなければならなくなる。また、韓国法では、公共企業や放送局といった基幹になる企業の外国人の株式持分を制限している。FTAが優先されると、韓国の全企業が外国人持分制限を撤廃する必要がある。

(8) 知的財産権を米国が直接制限する条項は、米国企業が韓国のWEBサイトを閉鎖できるようになる。(中略)

5.各訪問先・面談者・研究者などから出された見解や意見と重要な意見のメモ(内容略)。

6.まとめ、TPP反対、絶対阻止運動に対する教訓と岩手県における運動提起(内容略)。

(1)帰国してすぐ政府が発表した「TPP協定交渉の分野別状況」(3月改定・15頁)では、21のすべての分野にわたって、これからの交渉次第でありTPPによる我が国への影響は不明である。しかし、この中には韓米FTAにおいて「毒素条項」といわれた内容や韓国のFTA反対陣営が問題視していた事柄がすべて「交渉検討中」として取り上げられている。(中略)

(2) 韓国での調査で明らかになったことは、韓国も日本もいわゆる「グローバリゼーション」「新自由主義」による国づくりが着々と進行し、アメリカの国家戦略に強く組み込まれ、自国の「国益」と喧伝されている多くは米国の「国益」に他ならないことが次第に両国民に理解され始めている。(略) 中小零細企業や農業の経営は逼迫し地方と大都市の格差、あらゆるところで進む格差拡大は日本を上回る。韓米FTAはこの状況をさらに促進し、その「総仕上げ」としての政治的措置と言い切ることが出来よう。また、FTA参加表明は現野党の民主党、推進・批准は当時の野党・現与党という政党・政治的の関与状況も複雑である。また、韓国におけるマスコミへの大統領の支配力は絶大であることもあり、韓米FTAに関する情報隠蔽を続けながら、「反対するものは売国奴・非国民」的に一方的なキャンペーンを張ったという。

(3) 一方我が国は、1993年の宮沢・クリントン会談での「日米包括経済協議」の流れは、2001年の小泉・ブッシュ会談で「成長のための日米経済パートナーシップ」と名称が変わり、特に「日米投資イニシアティブ」が毎年2回例会を開き、外資による日本企業の買収・合併が促進され、日本の法律や制度の改正が次々強行され、我が国もまた、こうした多国籍金融資本による支配が急速に強まっている。関岡英之氏の「奪われる日本」(講談社現代新書)によると、その内容は「息を呑むほど壮観なリストだ」(関岡談)という。

(4) 有名な「年次改革要望書」で明らかなように、米国による「日本改造計画」は確実に展開され、特に、「小泉・竹中改革」という規制緩和、経済的・社会的構造改革、競争原理主義、自己責任論、「三位一体改革」、社会保障制度の改悪などによる格差拡大・貧困の再生産、地方の衰退などが広がった。(中略) こうして「平成の開国」といいながらアメリカと財界の要求を優先させて「TPP参加」による「壊国」の道を歩み、野田内閣は文字通り前のめりで協定交渉に入っている。政党・政治的な関係も政権交代とはいえ、民主党は「自民党以上に自民党的である」という評論家もあり、韓国と類似しているといえよう。また、中央マスコミのTPP礼讃、先行きの国家的危機感を煽り、国益のためにはTPP参加以外にない、という一方的キャンペーンの張り方、TPPの情報公開を迫らない姿勢も韓国と類似している。TPPは韓米FTAと同じように、「グローバリゼーション」「新自由主義」の総仕上げ的な「アメリカによるアメリカのための」TPPといえるだろう。

(5) そのアメリカは2007〜08年の100年に1回といわれた「金融危機」により、新自由主義・カジノ資本主義の正体が白日のもとに晒され、破綻したといえよう。(中略) オバマ大統領はTPPなどにより70万人の雇用拡大を発表しているが、すでにアメリカの製造業従事者は労働者の10%台であり、農産物を除けば関税引き下げによる輸出メリットは存在しないともいえる。したがって、アメリカのTPPの真の狙いは農産物を除けば「関税撤廃」よりも「非関税障壁の撤廃」であり、アメリカ型社会との同質化(法律的・制度的・社会的)を日本などに求めることに他ならない。TPPがあたかも「関税撤廃」「農業者とその他の産業・国民との対立構造」であるかのように意識的に作り出し、TPPの本当の姿、隠れた狙いを隠蔽する悪質な「欺瞞」そのものであり、TPPの危険な本質を物語っている。もはや、「1%が99%を支配するカネがカネを生むカジノ金融社会」に我が国を陥れてはならない。「正義を大切にして、未来の子供たちを思うTPP参加反対の国民的なうねりを創り出し」、TPP参加を絶対阻止するための大運動が求められている。「韓米FTAと反対運動に学ぶ」調査団の体験から、以上のことを多くの方々に伝えたい。(中略) 政府与党の責任者が「農業の1.5%のために、98.5%を犠牲して良いのか」という打ち出し方はそして、3・11東日本大震災、東京電力福島原発事故からの復旧・復興の最大の障害になるTPP、行過ぎた規制緩和・自由化の弊害がもたらした「格差と貧困」を一層激しくするTPP。現実の国難とも言うべき天災・人災に立ち向かい、新自由主義・競争原理主義の弊害から訣別する国民の切実な願いとは「真逆」の国づくりを進めるTPP参加を、絶対阻止する決意を固めたい。

(6) 3月2日に発表した米国通商代表部(USTR)の「2012年貿易障壁報告書」などで、1)牛肉と牛肉製品の一層の市場開放、2)食品添加物・ゼラチンなどの規制緩和、3)ポストハーベスト規制・農薬の最大基準値の緩和、4)MA米の流通促進と到着港での検査緩和、を求めている。特に、牛肉輸入の完全自由化については、「あらゆる段階で、あらゆる機会に日本に圧力をかける」と強調し、すでに日本政府の緩和措置の取り組みを評価しているように「先決条件」と位置付けていることは明確である。

(7) TPP参加を阻止する上で、当面する国民的運動をいかに展開するか、岩手県内におけるこれからの運動について、今回の韓米FTA調査を通じて次の五点を提起したい。

第一に、県内のすべての市町村における「TPPの本当の姿、私たちの未来への影響は?」の学習会を開催する。その準備をTPP反対岩手県民会議に参加する51団体が力を合わせて行い成功させる。その中で。より持続的な反対運動を創造的・主体的に検討し、より多くの住民の参加を実現する。この学習会では韓国への調査団の報告も確実に行なう。(資料・DVDの作成)

第二に、TPP反対運動は日本の農業や地域社会、子どもたちの未来を大きく左右する「国の姿・型を決める」取り組みである。食の安全・安心、農林水産業の持続的発展や治山治水などの国土保全・自然景観保持、格差や貧困からの脱出、地方経済・地域コミュニティの再生、子どもたちの未来への大人たちの責任など、多くの住民が誰でも賛同できる運動である。しかし、こうした住民が多く参加できない状況は「運動を推進する側」の熱意と創意工夫、覚悟の問題である。もっともっと見える(可視化)運動や世論を変える取り組みに工夫を凝らしていく。

第三に、したがって、この運動は「TPP参加絶対阻止」であり、「頑張ったけれど阻止できなかった・善戦した」という総括では意味がない決定的で歴史的な運動・闘いとして位置付けなければならない。

第四に、政府に対して「情報公開」を徹底的に迫り、真の国民的議論を求めていく。(中略) 韓米FTAによるこれからの国づくりは茨の道が予想される。我が国がそこから学ぶべき点は、TPP参加を絶対阻止することである。この点では、多くの地方議会が上げた「反対・慎重」の政府への意見書提出の結果、その後の成り行きに責任を持つように求める。地方議会への継続的な要請活動・再決議の請願書提出など、首長、議員との懇談会などを通じて彼らが傍観的立場を捨て取り組むような活動を工夫する。

第五に、農林水産業が地域経済の基盤であり、東日本大震災の未曾有の被害を受けた県であり、県内のTPPに反対するすべての団体が参加する「県民会議」の結成とその代表22名の韓米FTA調査団を派遣した唯一の県、岩手の責務として、それぞれの反対組織が東北各県や全国の系統組織に対して、岩手の取り組みを紹介しながら、全国的な反対運動の一層の前進を要請して貢献する。

※全文については、上部のリンクからダウンロードしてご覧ください。

<問い合わせ先>

岩手県生協連 電話:019-684-2225